【論説】憲法記念日 理念確認し針路の議論を

札幌高裁は今年3月、同性婚を認めない民法などの規定を憲法違反とする判決を下した。関連の規定は「法の下の平等」を定めた憲法14条とともに、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」とした24条1項にも違反するとの判断を初めて示したのだ。

判決はまず「個人の幸福追求権」を定めた13条に基づいて「同性婚の自由は、憲法上の権利として保障される重要な法的利益だ」と指摘。24条1項について「制定当初は同性婚が想定されていなかった」が「個人の尊重がより明確に認識されるようになった背景の下で解釈されることが相当だ」と述べた。

そこから読み取れるのは、憲法の基本原理である「基本的人権の尊重」を実践しようという裁判官の強い意志だろう。

国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という普遍的な理念を基本原理とする日本国憲法は施行から77年を迎えた。

時代とともに社会は変化し、国際情勢も変わる。だが、憲法の基本理念の持つ意義は不変であることを、札幌高裁判決は明確に示したと言える。

ただ札幌高裁の判決は「異例」と言わざるを得ないのが現状ではないか。基本原理は今、本当に守られているだろうか。

特に大きく揺らいでいるのが平和主義だろう。2016年に施行された安全保障関連法で、それまで行使できないとされてきた集団的自衛権の行使が解禁された。

岸田政権は22年12月に改定した「国家安全保障戦略」で、防衛費を国内総生産(GDP)比2%に倍増し、相手国の領域内を直接攻撃できる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を決定。また、武器輸出規制も緩和し、殺傷能力を持つ戦闘機の輸出にも道を開いた。

これらの変更は国民の代表である国会の審議を経ず、内閣による閣議決定で決められた。「国民主権」もないがしろにされたのだ。

それでも戦闘地域への武器輸出が制限されるなど一定の歯止めが盛りこまれたのは憲法の平和主義があるからだ。基本理念を今後どう生かしていくのか。私たちは岐路に立つ日本の針路を考えるために憲法の基本理念を再確認し、真剣な議論を尽くしたい。

日本国憲法は条文が短く、法律に委ねられる部分が多いため、条文改正は必要性が少ないとされる。だが、岸田文雄首相は自らの自民党総裁任期中の改憲を目指すと言明。衆院憲法審査会では、自民や公明、日本維新の会、国民民主の各党が改憲条文案の作成作業に入るよう主張している。

焦点は、大規模災害時などに国会議員の任期を延長できるようにする「緊急事態条項の新設」だ。確かに衆院議員の任期満了時に震災などが起きれば衆院選が実施できない事態が起こりかねない。

しかし拙速な議論は禍根を残す。参院議員は3年ごとに半数が改選され、残る半数で緊急集会が開ける。議員不在の事態を避けるための規定だ。任期延長は国民の選挙権行使の機会を奪うことにもなりかねない。

岸田首相は9月の自民党総裁任期までに改憲実現の見通しが立たない現状に対して「危機感を感じている」と答弁した。国の根幹である憲法改正の議論には幅広い合意の形成が必要だ。自らの任期を理由に改憲を急ぐのは、憲法論議を冒涜(ぼうとく)する姿勢というしかない。